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Medapani Blog

メダパニブログ

病院の話2

今日は無事に眼科を受診することができた。どうやらブラックリストには入っていなかったらしい。待合室で待っていると、看護師さんがやってきて僕の隣にいるお爺さんに問診をはじめた。お爺さんは自分の症状についてこう語った。


「人の背中から陽炎のような揺らめきが見える」


僕は思わず隣を見た。お爺さんはごく普通のお爺さんだったが、キチンとしたみなりで上品そうな人だった。看護師さんは特に驚いた様子も笑いだす様子もなく「ふんふん」と流す。よくあることなのか。人の背中から陽炎が見えるというのはよくあることなのか?  僕が知らないだけなのか?  僕に見えるのは飛蚊症のアレくらいのものである。


「熱気がな、こうかたまって。熱いからな」


お爺さんは続けて話す。人の背中に熱気がかたまり、陽炎のように立ち昇ってゆく揺らめきが見えると話す。看護師さんは「そうですかあ」と頷く。僕は眼科に来ていたつもりだったが、そうではなかったかと思いはじめた。たぶんここは、何かしらの能力者が集う場所だ。お爺さんは人の背中に陽炎を見て、その人の死を予知したり、憑依している悪魔を見抜く能力があるのである。僕もまた、暴走する魔眼を制御するためのアイテムとしてのコンタクトを買いに来たのである。看護師さんは「それじゃあ診察の前に検査をしますので、奥のお部屋にお願いしますねー」と何でもないようにお爺さんを案内していく。何の検査をするというのだ。お爺さんの能力を何に利用するつもりなのだ。彼は第二次大戦に青春を奪われ、その戦いの最中発現した能力のせいで恋人はおろか人付き合いすらままならぬ孤独な人生を送ってきた、傲慢なる人類の犠牲者だぞ。貴様らは善良な医療機関を装いながら、一体全体お爺さんの何をこれ以上狂わせようというのだ。僕の中で発火した小さな火花が、バチバチと音を立てながら熱を帯びていく。
 

そのとき、僕の名前が呼ばれた。

「〇〇さーん」
「あっ、はーい」
「今日はコンタクトでよろしかったですかね」
「あっ、はーい」
「視力検査だけしますので奥のお部屋どうぞー」
「あっ、はーい」

おわり