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Medapani Blog

メダパニブログ

思いやりの話

今僕は電車に乗っているが、座っている座席は2対2で向かい合った4人席の、その窓側の一席である。僕の真正面の席にはゴワゴワと膨らんだスーパーの袋が置いてある。僕の左斜め前の席(通路側になる)には男性がひとり座っている。そして僕の隣席がどうなっているかというと、人のカカトが乗せられている。使い古されたような黒い靴下である。左斜め前に座っている男性のものである。

男性の年齢は40歳くらいだと思う。そこまで身だしなみに気を使っているタイプではない。髪は寝癖がついているし、ヒゲがのびている。来ている服はヨレたジャージである。そして彼は隣の席に置いてあるスーパーの袋からスルメイカを取り出して食べている。よって、片手には缶ビールが握られている。靴は脱ぎ散らかし、繰り返すが僕の隣に足を振り上げている。


ふざけんじゃねえぞ…! と、僕は声に出さずつぶやいている。いや、僕ももう成人して久しい。朝からファミレスでお酒を飲む人に白い目を向けていた愚かで世間知らずだった頃とは違う。人の仕事には色々あるのだ。たとえば夜勤明けで朝からツマミにビールを楽しむという自由があったとして、それを誰が奪うことができようか。なので、酒を飲む時間帯についてあれこれ言うナンセンスなことはしない。が。が、である。僕は僕でこれから予定があるのである。家を出る2時間前には起床し、ミルクを一杯楽しみ、軽い朝食をとってニュースサイトを閲覧。おっと、もうこんな時間か参ったな…とシャワーを浴びて身だしなみを整え、たっぷりの余裕を持って玄関を出て、ほのかに感じる春の陽気に心癒され今日も一日頑張るかと爽やかな気分を己の中に高めて乗り込んだ電車でこれである。さらに言うなら、席は他にいくらでも空いているのになぜわざわざ僕の向かいに陣取ったのかこの男は。スルメの咀嚼音がとんでもなく耳障りである。席を立とうにも彼の足が進路を塞いでいる。当の男は窓の外を眺めながら「へえ、今はこんな風になっているのか!」「いやー変わったなあ」などと呑気につぶやいている。ほほう、そうですか久しぶりにこの地を訪れたんですね。景色を懐かしみながらお酒を楽しむのは気持ちが良さそうですねえ。だからと言って僕の隣に足を乗せるんじゃあないよ。

正直に言うとここまで書いた時点ですでに僕は彼の足をハードルのように乗り越えて電車を降りているのでこの話はもう終わります。人の自由と自由とはぶつかり合うもの。譲り合い気遣いの精神を忘れてはならないのである。イッツジャパニーズオモイヤリ。

おわり