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とりとめのない帰宅の話

僕の住んでいる地域は今朝豪雨だった。上からはもちろん右から左から後ろから、下手すると地面に当たって跳ね返った雨が下からも僕を襲い、傘などなんの意味もなく髪も服も靴も背負っていたリュックでさえも、まとめてもれなくずぶ濡れのぐしょぐしょになったのである。

どうでもいい理由なので省くが、簡潔に言うと僕はその豪雨の中どこかへ外出するのではなく帰宅する途中だった。駅まで歩き、電車に乗って、降りたらまた家まで歩かねばならなかった。駅にたどり着いた時点で僕は、上に書いたずぶ濡れの状態だった。着ていたモスグリーンの上着は雨を吸いまくって色が一段階濃くなっていた。そして異常に寒い。よくアニメの遭難エピソードで、洞窟の中に避難して焚き火をしつつ、濡れた服を脱いで乾かすシーンがある。遭難者の組み合わせが男女の場合は、背中を向けあって会話をして、途中感情的になって思わず相手の方を向いてしまい「キャッ!」となるのが定石だが今はそれはいい。

とにかく僕はそういう場合「なぜ脱ぐ」と疑問に思いながら生きてきた男である。なぜかというと、裸になるより濡れていても服を着ていた方が冷たい外気に触れないのだからマシではないのか、体温により服の乾きも早まるのではないのか、という今思えば小学生も真っ青な発想を持っていたからである。が、これは間違っていたことが本日わかった。僕は濡れそぼった上着を着てぶるぶる震えた。初めは自分が寒がっているということにすら気づかなかったほどである。なんだか体が震えている。なぜだ。まさか…俺 は 寒 が っ て い る の か ? という具合であった。

で、びしょ濡れの上着を脱いだのだが、その下は半袖のTシャツなのである。最近暑かったせいである。僕は変わらずガタガタ震え、しかも近くにいた防寒バッチリおばさんから犯罪者を見るような目で見られた。「違うんですおばさん、これには深い訳があって…」と説明のためににじり寄ろうとしたが本当に犯罪者になりそうだったのでやめておいた。

そして僕は電車を待つ間「電車を降りた後家まで歩くのはちょっとキツイな」と考え始めていた。そこで、フィールド魔法カード《実家》がもたらす恩恵、つまりフィールドパワーソースを最大限活用すべく、最低のデュエリストの汚名を被る覚悟で母親の携帯に電話をかけたのである。無論、駅まで迎えに来てもらおうという目論見であった。が、三度のコールにも母親は出ない。何か用事で出かけているのか。それとも生贄が足りなかったのか。ともあれ、僕は母親の召喚に失敗し、絶望と共に電車に乗り込んだのである。

電車を降りてなお雨は降り止むことなく、僕は半袖濡れTのまま帰路へと繰り出して行った。僕の心中では「ええい母上は何をお考えなのか!」という、殿に振り回される家臣と「いや、きっと何か所用を召されておられるのだ」という、殿を古くから知る乳兄弟が意見を交わし合っていた。人間の体はほとんどが水分でできているというが、雨に濡れまくった僕はその水分をさらに増していたと思う。体の120パーセントほどが水分で構成され新人類となった僕は、ようやく家にたどり着いた。

玄関で気力も絶え絶えになりながら何とかタオルで体を拭いてリビングに上がった僕を待っていたのはソファーに座ってiPhoneをいじりつつテレビを観ている母親であった。母親は軽く手を上げて言った。

「おかえりー!雨すごいね!」

僕は未だ髪から雫を滴らせながら言った。

「…連絡したんですけど気づいて頂けませんでしたでしょうか」

「えっ!気づかなかった!」

母親は「ごっめーん☆」という感じで言った。
が、僕の虚ろな目は母親が今まさに操作しているiPhoneを捉えて離さなかったのである。僕は「そっか、じゃあ仕方ないね…」とつぶやいて自室へと向かった。

あなたも友人を遊びに誘ったら不自然なくらい返事がなくて、翌日あたりに「ごめん寝てた」と返ってきた経験がないだろうか。これはそういう話である。

おわり