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ヤモリ先生の話

玄関を出たすぐのところで、ヤモリ的な爬虫類がお互いの腹をガッツリ噛み合ったままピクリともしなかったのである。写真を撮ってアップしようかとも思ったが、正直グロ注意にもほどがある衝撃映像なのでやめておいた。が、僕はこうした爬虫類だとか虫だとかが野放しになっている状態に著しく恐怖を覚えるヘタレ野郎であり、高校生の頃、下校の際に自分の自転車のサドルの上にカマキリが乗っているのを見ただけで「あ、体操服忘れた」とか誰に向けてでもなく呟いたあと、教室に戻って少し時間を潰したほどの男である(ちなみに30分潰して駐輪場に戻ったが、カマキリは依然としてそこに鎮座しており、僕は泣いた)。

ケージの中とかにいるのを見る分には全然大丈夫で、むしろ生命の神秘だとか鮮やかな彩りに感心し「ほぅ」と感嘆するなど、探究心と感受性に溢れた素晴らしい人材で、なぜ正社員でないのか世の人々がこぞって疑問視する僕なのであるが、野生のものはキツく、雨の日にカエルが姿をあらわせば傘を放り裸足で逃げ出す有様。玄関先でヤモリが食い合っている光景に出くわせば硬直するのは必然。まさに蛇に睨まれたカエル状態であった。一歩踏み出して跨いでしまえばそれで終わりのことなのだが、いやしかしそれができない。跨ぐ瞬間に動き始めたらどうしたらよいのか、こちらに二匹まとめて飛びかかってきたら心臓が止まるのではないか、そうした懸念によりまったく身動きすることかなわなかったのである。

が、そうこうしてもいられないので、意を決して出来るだけ端に寄り、離れた所を通り抜けようと壁に背をつけつま先で歩けば、なぜかそれに反応したヤモリがピクリと動いたのである。ひゃー!との悲鳴を内心で響かせ、結局僕は足早にそこを通り抜け、庭に止めている自転車に飛び乗った。その際ちらりと確認した二匹のヤモリは、そこから僕を見送ろうと振り返ることもせず、獲物を逃すまいと背後から飛びかかってくることもせず、ただひたすら互いの腹に噛みつき野生動物たる己が矜持を証明し続けていたのである。その時点で僕は、僕よりはるかに小さな爬虫類にすら自意識を過剰に向けていたことに気づいて己を恥じたと同時、二匹は自然界の対決の只中におり、僕のような生ぬるい人間には目もくれていなかったことを悟って、自分は生きるということにおいてヤモリにも劣る意識しか持ち合わせていなかったのだ、ということに絶望したのであった。

僕の当面の目標は、ヤモリ先生に追いつくことである。

おわり