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Medapani Blog

メダパニブログ

43万8000円の話

昨晩、大学時代の先輩にご飯を奢ってもらった。その際に聞いたのだが、先輩はペットショップで子猫(メス)に一目惚れをされたらしい。「された」というのは誤字ではない。ペットショップのケージの中からその子猫は、他の客には目もくれず、先輩の方にだけ熱い視線を注いで首を傾げてきたというのである。写真で見せてもらったその子猫は、何とかという種類だそうで(たしかグランブルーファンタジーみたいな語感だった)、薄い桃色の毛並みをしていて、大きくてウルウルした目だった。あの目で見つめられたらそれは一目惚れをされたと思ってもおかしくはない。ちなみにお値段は驚きの43万8000円。さしもの先輩もおいそれと手を出せない価格である。

 
そんな出会いを興奮気味に語る先輩に対し、僕は奢って貰っている立場にもかかわらず、その子猫の話はいったん他所に置いて、「先行きが不安なので転職を考えている」というかなり安易な展望を相談した。先輩は先輩ゆえに僕の数年は多く生きているので「個人年金に入るべき」「医療保険は30歳までに入れ」「生活保護の手続きは任せろ」「俺より先に結婚したら殺す」等々、叱咤激励をしてくれたが、僕はその日の疲れと翌日の超絶長時間勤務への絶望からついにはビール一杯でカウンターに伏せてしまったのである。そんな僕の姿を見た先輩は言った。
 
 
「よしわかった。岬くん、俺は子猫を買うよ」
「??!??!」
 
 
一瞬、何言ってんだこの人と思ったが、先輩が言うにはこうだった。
 
 
「俺が43万8000円の子猫という高額の買い物をすることで、人生は仕事でもなく、年収でもなく、稼いだ金でどう満足するかが大切なのだということを教えてやる。人に見栄を張るためではなく、自分に誇りを持つために生きることの素晴らしさを教えてやる」
 
 
僕は素直に先輩カッコよすぎワロタと思い、この名言が三杯目の島美人によって引き出された勢いによるものではないことを願った。先輩は愛らしい子猫を買うことで僕に人生のなんたるかを教えてくれようというのである。端から見ると滑稽かもしれないが、その本質は男の魂の伝授である。先輩は明日朝イチで子猫を買いに行く旨を決定して、部屋の掃除を行うこと、様々なグッズを購入することを宣誓した。そして気は早いが名前をつけようという運びになった。
 
僕はネーミング案を求められ、まずその特徴的な目から「うるる」か「さらら」はどうでしょうかと言った。先輩は「なんかエロい」と却下した。次に趣向を変えて「ジェネラルシャドウ」はどうかと聞いた。先輩の反応は意外と良く、一瞬迷っていたが「その名前は二匹目以降だな…」と認められなかった。それから、その子猫の特徴を並べていき、どうやら14年間生きるらしいということが判明する。僕がパッと思いついたのは「ジュウシマツ」だったが、それはオスの名前だし、他にも5匹ほど買い足さなければならないという反対意見が出る。難航する中、僕はそこから連想して提案した。「では先輩、もうアレしかないです。トト子ちゃんにしましょう。目がうるうるしてるし」「おお」先輩の目が大きく開かれ、口端が持ち上がる。
 
結果として、子猫の名前は「トト子」ちゃんということなった。先輩は「いや、でも人に紹介するときに絶対『おそ松さん』好きだと思われる」とか「ある意味時事ネタで後々恥ずかしい名前になるのでは」等々の不安を口にしていたが、まあ納得したようであった。
 
酒の席の話なのでその後どうなるかはわからないが、とりあえず僕は子猫の飼い主となる先輩を応援します。43万8000円の身銭を切ってくれてありがとう先輩。
 
おわり